ある歯の一生
根管治療の技術的な難しさを説明する前に、ある歯牙の不幸な一生を見てください。
(上から1枚目)
ウミが溜まったので根の治療を開始しました。
(上から2枚目)
根の治療が終了しました。
(上から3枚目)
銀歯を被せて治療が終了しました。
(上から4枚目)
歯が割れてしまいました。この後、抜歯になりました。
上の写真の右側に金属の光った部分が有るのが分かりますか?実はこれは根管治療の大きなトラブルの1つである、ファイルの破折が起こったとこなのです。治療自体はバイパスを形成し、問題無く出来ています。
根管治療で一番困難なのは、根管拡大と言って、根を広げる処置です。
以下、これについて詳しく述べていきます。
根管拡大について
右図のように針のようなもので、根っこを削って綺麗にしていく事を根管拡大と言います。
先ほど、説明した上の写真の光ったとこは、針の先端部分が折れたところです。
針には色々な種類があり、リーマとかファイルとか呼ばれています。
1本の値段は150円~340円位します。当院では340円の物を多用します。
根管拡大の経済性
患者さんが来院して、根管拡大を行ったとします。
根が2本の歯を拡大したとします。すると、再診料420円、根管貼薬220円、合計660円頂けます。
この時使った針の値段は下表の通りです。#は針の太さを表します6~110とかまであります。
針の太さ(#) | 値段 |
6 | 263円 |
8(D Finder) | 341円 |
10(D Finder) | 341円 |
12 | 341円 |
15 | 271円 |
17 |
341円 |
20 | 271円 |
22 | 341円 |
25 | 271円 |
27 | 341円 |
30 | 271円 |
32 | 341円 |
35 | 271円 |
37 | 341円 |
40 | 271円 |
上の表で計算してもらえば、分かりますが、針代だけで4,617円かかります。
針の破折を防ぐいい方法の1つには使い捨てがありますが、660円(治療費本体220円)の治療に4,600円は使えません。
恐怖との戦い
針を再使用する理由が分かった事と思います。
しかし、#6、8、10などは殆ど1,2回しか使えませんので、使い捨てみたいなもんです。それどころか、1人の患者さんに数本いっぺんに使うことさえあります。
再使用するためには、金属疲労に細心の注意を払わなければなりません。もし、上の写真のように破折させてしまったら、1時間で済む治療が4,5時間かかります。それよりも、破折してしまったら、ジ・エンドが大半だと思われます。バイパス形成を成功させるには、かなりの技量が必要でしょうね。
そのために、金属疲労の恐怖に怯えながら、極度の緊張状態で、仕事を行うことになります。研ぎ澄まされた指先の感覚が必要とされる仕事です。
それで220円です。これが0.2%の理由でもあるのです。